出会い

ちっちゃな物語

住宅街には似つかわしくない光景が目の前に現れた。

3~40頭はいるだろうか、一斉に不審な来訪者の私たちに向かって

緑の芝生が眩しい広い敷地のお庭から、豆柴達が

「ワン!ワン!!」、「キャン!キャン!!」と吠えてこちらを見ている。

あ~なんて犬好きの人からしたら天国のような光景なんだろう~と

にやけた顔で、一般家庭とまったく変わらない玄関を通り客間に通された。

ブリーダーさんが8歳の黒豆柴の女の子を抱いてあらわれた。

今まで標準的な柴犬しか見たことがなかった私は、初めて「豆柴」を生で見て

こんなにも成犬でミニマムなんだ~と

柴犬>豆柴>小豆柴のサイズ感を始めて体感した。

体高は恐らく30センチもなく、体重は4㎏もないであろうほとんど小型犬の代表格

チワワと同じサイズ感だ!「これで成犬!?」

ブリーダーさんが大事に抱っこしている子は、繫殖犬として育てられていたらしく

(今は引退してのんびり生活しているらしい)

大金を積まれても譲渡しない。というくらいエース級のワンちゃんだった。

ひとしきり雑談や迎え入れたい子の希望を伝えたころ、

奥から一匹の小豆柴(豆柴を基にさらに小型に改良・繁殖、作出した犬種)の

小さい女の子を連れて来た。ブリーダーさんの膝の上で

その子はとてもおとなしく、おもむろにパチン、パチンと爪を切られ始めた。

「まだ8か月ですが、この子なんかはどうですか?」と。「えっ!?」

そもそも当初の予定はまずブリーダーさんの飼育環境と、

どのぐらいの成犬がいるのか?を直接見て

どのブリーダーさんから迎え入れるかを決めようとした準備段階のはずだった。

先方にもそう伝えてあったはずだったが、突然の申入れに動揺する私。

たしかに今私がこの場で決断しなければ、おそらくこの子は別のご家族に

ひきとられて行くのは明白だった。

面会時間は一時間ごとに設定されているらしく、私たちが面会している間にも

次の少し早くついたであろう面会者が訪ねてきていた。

さまざまな理由で里子に出される子であっても、月齢が若くなくても

殆どの子も短いスパンで新しいご家族の元へと迎え入れられていく。

黒毛の小さくおとなしい女の子がプルプルと震えながら

私の膝の上で不安気にしている姿は愛おしさMAXでしかないではないか!

(いやいや、待て待てまだすべてにおいて準備が出来てないし…)

(今日は様子を見に来ただけだし…)

(でもこの機会を逃したら、今度希望する里子にいつ会えるか

 わからないのかぁ…)

ぐずぐずしている私に、一緒にいた妹が一言「一期一会だよ。」と。

「では、この子をお願いします。

お迎えは一か月後でも大丈夫でしょうか?」と切り出し

私はこの黒毛の小さな小豆柴の女の子と、これからの生活を共にして

いくことを決めた瞬間だった。

ワンコを迎え入れたいと考えた時に、本当に色々な事を考え、想定し

最後の最後まで責任をもってお世話していくことが出来るのか?

自己管理をして、自分の体調よりもワンコのお世話を優先できるのか?

すべて納得した上での決断であったにもかかわらず、

一つの不安材料をかかえつつ、ワクワクとドキドキとなぜか胃がチクりチクり

とした感覚を感じながら、一か月後のお迎え時にこの道をどんな気持ちで

通るのだろうかと思いながら夏真っ盛りのお盆休み初日、

車を走らせて家路に着いた。

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