お迎え初日の夜は、心配していたご飯は完食。一畳ほどのケージの中に安心できるようにベッド代わりとして設置してあるクレート。そのクレートの中で静かに眠っている様子だった。ただ排泄を一度もしていなかった。でも限界がきたらケージの中でするだろう。ちゃんとトイレシートも敷き詰めてあるからと思い、お互い就寝した。

翌日の早朝に1Fから微かに聞こえるウォォォォーン……ウォォォォーン…… 何か聞こえる?静まり返った朝に似つかわしくない音が聞こえる?一瞬で「あっ!」と飛び起きる。
2Fの寝室のドアを開けた瞬間に強烈な臭いが…寝ぼけまなこで1Fに降りていくほどその悪臭は強烈さを増していく…
そしてケージを見た瞬間私は呆然と立ち尽くしてしまった。
そこには、排せつまみれになったトイレシートの上で、花が雄たけびをあげていたのだ。怪獣だ…。
一瞬のうちに我にかえった私はまだ薄暗い、寝ぐせで爆発した髪でパジャマ姿のまま急いで花をクレートに閉じ込めた。(これ以上排せつまみれにならないよう)換気のために窓を全開にし、トイレシートを片付け、雑巾を手に掃除をした。すごい臭いに包まれながらパジャマ姿で四つん這いになり、時折ケージに頭をぶつけ掃除する姿は花にどう映ったのだろう?クレートの隙間から、じっとこちらを見つめる視線を感じていた。ケージ内の掃除も終わり、花の身体もキレイに拭き、掃除の終わったケージに再度花を解き放ち、ご飯をあげた。満足そうに食べきり、何事もなかったかのようにクレートに入り眠っている。
すっかり目がさめた私は、休日にしてはかなり早い時間の身支度をはじめる羽目になった。

これからきっと色んな出来事、ハプニングが起こるだろう。一つ一つが経験と思い出になっていく。心配事や悩みも理解してくれる存在が私たちには必要だ。そう考えて、ワンコを迎え入れる時は、必ず信頼できるドッグトレーナーさんを見つけて、ドッグトレーニングを受けようと決めていた。
そして私たちは早々にドッグトレーニングを開始した。実地の訓練だけでなく心配事を一つ一つヒアリングしてくれた。お留守番時間のこと、ケージやクレートの位置、お散歩の時間やタイミング、ご飯やおやつのあげ方、病院選びやトリマーさんとの関係性についてなど。更には照明のことまでも質問には丁寧に答えてくれた。家族と住んでいた頃に、保護犬と暮らしていた経験はあったものの、花にとってのベストな環境を整えてあげられるよう必死だった。
そんな私にトレーナーさんは「心配し過ぎですよ!」と笑った。「もっと肩の力を抜いて大丈夫ですよ」と。「飼い主さんが緊張しっぱなしだと花ちゃんにもそれが伝わっちゃいますからね」とも。ふと、必死の形相で相談している自分の姿が想像できて一緒に笑った。やはりプロの目で一緒に花の成長を見届けてくれる人の存在はとても心強いと感じた瞬間だった。ペットも人も無理をせず、長く幸せに家族として共存していけるようにアドバイスをしてくれる。時間をかけて探したこのトレーナーさんとなら、花にとっていい結果になるはずだと確信していた。

まずは朝晩に玄関先で外の音を聴きながら一緒に過ごすことから。静かな山育ちの花にとっては見るもの聞くもの全てが初体験だ。新聞配達のバイクの音、散歩をしている人の足音や話し声。夕方は家路を急ぐ学生や会社員の人たちの笑い声や車の音、散歩しているワンコ達の鳴き声。耳をピクピクと動かし、鼻先をあげ匂いを感じとりながらもお座りしたまま微動だにしない。花の緊張感が伝わってくる気がした。
いよいよ散歩デビュー。ワンコあるあるで全く歩かない…不安そうに私を見上げる顔、リードに慣れておらず違和感を感じてガジガジかじる、諦めて落胆し座り込む花。朝はタイムリミットがあるので焦る飼い主。それでも根気強く、抱っこして歩き地面に降ろして様子見、また少し抱っこして歩き地面に降ろして様子見の繰り返し。それでも一週間たった頃だろうか、初めて10m程リードを気にせず歩く姿を見せてくれた。キョロキョロと周りを気にしながらも、テクテクと確実に歩みを進めた時の嬉しさと感動は、昨日のことのように鮮明に覚えている。一生懸命に環境に順応しようと、成長している花の姿が愛おしく、そして毎日が慌ただしく過ぎていった。

