50代になって、桐の箱に入れられた着物の喪服を定期的に管理するたび「どうしよう…」と思うことが多くなっていました。そして私はこの着物の喪服を処分するのでもなく、買取してもらうのでもなく、リメイクしてそばに置いておく選択をしました。後悔はいっさいしていません。使用頻度や費用の面でも、むしろ50代というこの時期にしておいて良かったと思っています。
身軽でいたい、シンプルに暮らしたい、50代になってそんな気持ちになってきました。若いうちは自分に足りないものを、ただ増やし続けることに注力していた気がします。いつからか物も、考え方も、自分自身を形成するすべてのことが少数精鋭でいいと感じるようになったのです。
物を減らしていきたいと思いつき、GWやお盆休み、年末年始の休暇になると一部屋ごと、時間をかけ自分の持ち物を精査していきました。「これは、これからの自分にとって必要か?」の問いに一つ一つ向き合い続けました。その一つに着物の喪服があったのです。

着物の喪服の出番はある?
私は50代になる前に、すでに両親を看取っていました。母が娘たちに「どこへ行っても恥ずかしくないように」と作ってくれた家紋入りの着物の喪服で父の時も、母の時も袖を通して2人を見送ることが出来ました。私は独身なので、子供に受け継ぐこともありませんし、喪服の出番は終わった気がしていました。でも思いや記憶が詰まった高価な喪服をそのまま処分することは、私にはどう考えてもできませんでした。
・着物の喪服についての基礎知識
全日本葬祭業協同組合連合会(全葬連)では正喪服 → 準喪服 → 略喪服の順で3種類に分類。
女性の正喪服は「黒無地の着物に、黒共帯、黒帯揚げ、黒帯締め」とされています。
そして正喪服は葬儀・告別式で喪主や遺族が着用する、最も格式が高い喪服と説明しています。まさしく”どこへ行っても恥ずかしくない”正装です。
しかし、葬儀関連団体からの資料には、「現在では着る機会が非常に限定的」とされていて、着物の喪服着用自体が少なくなっていることがわかります。
そうなると、私がこれからこの喪服を着る機会は、やはりゼロに近いとわかります。湿気対策のため桐の箱に入れ、この重い箱から出して、定期的に外の空気に触れさせる。この作業を終わらせようと決心するには十分な情報でした。
後悔してしまう理由と調べてわかったデメリット
ネット検索に頼り、後悔しないよう調べました。フリマアプリへ出品、買取やリメイク、寄付など着物を手放す方法はいくつかありました。ただ買取は留袖や振袖が主で、家紋付きの喪服は需要の無さから引き取りは難しいという面がありました。(参考:カメラのキタムラ)
フリマアプリは買取業者と同じ観点と、出品には写真撮影などかなり手間がかかるのを考えると、割に合わない気がしました。寄付には不明瞭な点があり、納得することができませんでした。そこで、形を変えて側におき、利用し続けられるリメイクに焦点を合わせたのです。しかし出てきた結果は「普段着としてリメイクしたが結局タンスの肥やしに」や「お手入れが大変」、「クリーニング代がかかる」など費用面でのリスクも上がっていました。
それでもリメイク。普段着ではなくブラックフォーマルへ

私は春夏用のブラックフォーマルの洋装に仕立てて頂くことを考えました。普段着用のシャツやスカートにしなかったのは、ネット検索でも上がっていたデメリットのお手入れとクリーニングのストレスを減らしたかったからです。冠婚葬祭用の洋服は一年に一回着ればいいほうだと思います。それに、恐らくその一回着たら次回のためにクリーニングをされる方も多いのではないでしょうか?汗もかかず数時間だけならともかく、一日中着用した服は、またいざという時のために綺麗にして保管しておきたいものです。これは洋装でも着物リメイク品でも同じだと考えたからです。出番の少ないブラックフォーマル用にして、着たらクリーニングに出す。普段着なのにクリーニングに出さないといけない手間とストレスを、そもそもクリーニングに出す前提で着用することとして潔く選びました。また縁起を気にされる方であっても、そもそも洋装の喪服として着用すれば問題ないと思います。
洋装の喪服はもともと持っていました。でも更年期になって体型に違和感(笑)を覚えざるを得なくなり夏用の洋装の喪服が欲しいなと思っていました。冬はジャケットを羽織ってしまえば多少の体型カモフラージュも可能ですが、夏の薄着になるとそうはいかないものです。買い替えようと思っていたのが、着物の喪服リメイク品に変わったのです。
依頼先は大手ではなく、個人作家さんへ

依頼先を検討するにあたって、重要視したのは価格はもちろんですが、まずどんなリメイクをしているかの実績と、丁寧に扱ってくれるかということでした。もちろん初めてのことでHPなどを見ても、良し悪しが全てわかるわけでもありません。自分の感覚次第ではあります。なので対面で打ち合わせできる地域の店舗を探して目星をつけました。個人で工房を経営していて、お教室もやられている作家さんのInstagramに載せられていた作品が目を引いたのです。この人なら思いを汲んでもらえるかも…早速連絡をとり、夏用と冬用の2着の喪服と帯1本を布に包みずっしりとした重みを感じつつ、持って向かいました。打ち合わせは、実際の物を見せて頂いたり、アドバイスをしてくれたので完成品のイメージを持つことができました。これは対面でのメリットとなりました。結果、制作で依頼したのは
・厚手の冬用喪服から半袖のワンピース
・薄手の夏用喪服から7分袖のワンピース
・帯からはA4サイズの手提げバッグと持ち手に竹を使用したトートバッグ
・他は数珠入と半袖ワンピースに合うボレロを一着
全6点で、合計約13万円になりました。けっして安い価格ではありませんが、これを高いと思うかは人それぞれになります。現役の今だからやりくりできたのです。
そして着物の喪服が、形を変えて私の元に戻ってきたのは依頼してから1年後でした。これは個人でやっていることと、現在も製作中の案件をいくつか抱えていることにありました。私は急いでいることもなかったので了承して待つことができました。
完成品のクオリティーとメンテナンス
綺麗にリメイクされたワンピースは、着物生地だとは思えないくらい軽やかに、それでいて上質なハリ感を感じられる仕上がりとなっていました。不思議なことに、完成を待っていた一年間は喪服を着る機会が訪れることはありませんでした。一年間待って完成の連絡を頂き、手元に戻った3ヶ月後に7分袖のワンピースに袖を通すことになったのです。
夏のその日は、いつもより涼しく3時間程の着用でした。目立った汗をかくことも無くすみました。なので、2〜3日風通しの良い部屋にかけて置き、その後は洋服ブラシで埃をとってから防虫の衣類カバーを掛けて保管しました。今回はクリーニングに出すことはなかったのは幸いでした。リメイクして頂いた作家さんによると、実際クリーニングに出す場合は通常の洋装ワンピースとして出すのではなく、着物のリメイク品として出すのが安心ですよとのことでした。大賀屋呉服店 には「素材:正絹(しょうけん)が正式ですが、近年は洗える化繊素材のものもあります。 」と説明されています。(正絹とはシルク100%のことです。)つまりそもそもの喪服生地が正絹なのか化繊素材のものなのかによって、クリーニングの仕方が変わるということです。クリーニングに出して、失敗しないように確認が必要です。それによりコストも変わってきます。クリーニングの依頼先により金額は変わるので一概には言えませんが、参考としての一例は
・通常ワンピース:1,600円~(スタンダード)/3,200円~(デラックス) 白進堂
・着物リメイクワンピース:3,850円 洗匠工房
約2.7倍です。やはり通常のワンピースよりは割高ですが、着物リメイク品だからといって極端な金額設定ではないことがわかります。(2026年8月時点)
リメイクして今思うこと

決して処分や買取がいけない訳ではありません。人それぞれ思いや事情があっていいと思っています。どこに価値をおくかです。洋装にリメイクすれば、着物の素材上クリーニングにかかる費用は割高になります。冠婚葬祭用のブラックフォーマルにすれば出番が少ない分その費用は抑えられます。バッグやポーチ、日傘などの小物にリメイクしてもらえばクリーニング代の心配は減らすことができます。たとえ上質な品であっても一生物ではなく、使えば消耗していきます。リメイクされた品もいつかは寿命がきます。でも、恐らく二度と着ることのない着物の喪服を、たとえ大事に桐の箱に入れていても忘れてしまうことはあっても、桐の箱を見るだけでは温かい気持ちになることはないと思います。
私の母は娘二人のために、それぞれ名前入りで着物の喪服を作ってくれました。恐らくは嫁入り道具としての意図もあったかもしれません(これは叶えてあげられませんでした笑)が、今となっては聞くことが出来ません。でも母親の娘たちへの自立を応援する愛は感じとることができます。私が依頼したリメイク作家さんはこの名前の刺繍部分をワンピースのポケット裏に加工してくれました。ポケットをひっくり返し、黒の生地に赤い刺繍で自分の名前があるのを見るたび、温かい気持ちになります。家紋の部分も数珠入れやワンピースのボタン部分にさりげなく残してくれました。バッグはもう少し年齢がいったら使いたいなと思っています。
ワンピースに袖を通すたび、バッグや数珠入れを手に取るたび、使い続けることで母の思いに触れることができるような気が、今はしているのです。
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